操舵号令1


  帰り航海 1999年9月

調査中、鯨類の発見があるとトップバレルから号令がかかります。

「フルスピーッ!」→ 現場位置へ全速で向かう (フルスピードの転訛)
「スコスロー!」→ 現場近くなって少し減速する (少しスローの転訛)
「スコスロー!」→ さらに減速する
「ハースピー!」→ 半速にする (ハーフスピードの転訛)
「スコスロー!」→ もちょっと減速する
「スロー!」→ 低速にする
「ベリスロー!」→ 微速にする (ベリースローの転訛)
「ストップエンジン!」→ 機関を停止し惰力(行き足といいます)で進む

この号令を受けて、機関室もしくはアッパーブリッジのエンジンさん(機関部の方)がスロットルを調整して所定の速度にします。さらにトップからは舵についての指示が出ます。

「ちょいポール!」→ 左に少し舵を切る (ポールはポートの転訛)
「ポール!」→ 左に舵を切る
「ポールいっぱい!」→ 左に大きく舵を切る
「ミジップ!」→ 舵を中央に戻す
「ステレー!」→ 進路を保持する (ステレーはステディーの転訛)
「ちょいスタボール!」→ 右に少し舵を切る (スタボールはスターボードの転訛)
「スタボール!」→ 右に舵を切る
「スタボールいっぱい!」→ 右に大きく舵を切る

操舵はアッパーの操舵手(甲板部員)が受け持ちます。新人さんだとスピーカーの音声が聞き取りにくかったり上手く針路保持ができなかったりして、そのたびトップのボースン(甲板長)やアッパーのキャプテン(船長)ほか先輩諸氏から叱られる(早い話が怒鳴られる)ので大変です。

接近中にクジラが潜水することもよくあって、そんな時は潜水地点付近で停止(ボースンによっては大きく旋回したりしますが、あくまでケースバイケース)、あるいは泳いで行った方向に微速で航走したりします。
停止した後、再び動き出す時は号令を組み合わせることも多く、

「ベリスロゴーヘー」「スターボール!」→ 微速前進、右に舵を切る
「もすこーし!」→ 少し増速
「スロー」「ミジップ!」→ 機関低速、舵中央
(ここで船の後方にクジラが浮上…)
「スターボールいっぱい!」「フルスピー!」→ 右に大きく舵を切り、全速前進
「ステレー!」→ 進路このまま
「ちょいポール!」→ 進路少し左に修正

と、こんな感じでクジラに接近を試みます。微速前進の「ベリスロゴーヘー」というのはベリースロー&ゴーアヘッドが転訛したもので、本来ならデッドスローと言うところが、捕鯨業界独特の伝統的呼称となっています。この“業界”というのもいろいろあって、会社によっては「フルスピー」を「ホースピー」と言ったりしていました。

ちなみに「ゴーヘー」は前進、後進は「アスタン」といいます。「アスタン」は調査中、あまり使うことはありませんが、入出港時は操舵と組み合わせてよく使われます。

クジラもいろいろクセがあって、すんなり接近させてくれない(業界では“コスい”といいます)個体に遭遇すると時間がかかります。特に皮膚サンプルを採取したり衛星標識を装着する時はうんと接近せねばならず、1時間くらいかかることもあります。その間、トップではボースンはじめ甲板部の方々が、アッパーではキャプテンはじめ甲板部や機関部の方々がクジラの動きを追い、見失ったら捜索し、発見すると操船して接近し、所定の観察や実験などを行うのです。ずっと緊張しっぱなしの、本当に大変な仕事です。

私たち調査員はその間、各種観察を行って記録したり、サンプル採取などの段取りを考えたり、道具を持って船首に移動したり。決してぼーっとしているわけではありませんので念のため。

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Author:mesoplodon
子供の頃から「生き物」「乗り物」「化け物」好き。海やら街やらで写真を撮っています。

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