気持ちのいい場所


  巨樹 2015年9月

 落ち着くところ、ホッとできるところ、自分でいられるところ…そんな場所、ありますか。

 子供の頃、堤防沿いの貨物線の線路脇。いつ通るかも分からない貨物列車を待ちながら、一人ぷらぷらと虫を獲ったり空を眺めたり。そのうち遠くの踏切で警報機が鳴りはじめ、ぴいぃーっと汽笛も聞こえます。やがて線路がぴきぴきと音を立て、ぶうんという重い音と共に列車が通過していく…。鉄道少年にとっては至福の時でありました。大人になった今も鉄道の写真を撮りに出かけたりはしますが、風景にごちゃごちゃと俗なものが写り込み、かつてのようなのどけさはありません。またカメラを持って歩いていると人の目が気になって仕方なく、通報されたらどうしようかなどと、情けないことを考える始末です。

 動物や鳥、昆虫の写真を撮るようになって、野山へ出かける機会が増えました。誰もいない林道、誰も来ない小川のほとり、自分だけがその場の空気や光や様々な音を独り占め、ただただ生き物の出現を待って過ごす時間が過ぎていきます。ふと見るとカメラバッグでシャクトリムシが行進していたり、近くの葉っぱにゾウムシを見つけたり。どこから来たとか、何をしているのかと問われることもなく、自分と生き物だけに時間が流れていきます。これが幸福でなくて、何なのでしょうか。

 調査員時代、鯨類の発見があると接近して種類や頭数などの確認を行い、風が強くなるなどで、そのまま漂泊することがありました。ごく近くまで寄って観察を行うので、クジラたちもしばらくはそのあたりを泳いでいます。また、主機が停止して騒々しいエンジン音もなくなるため、彼らも安心するのでしょう、泳ぎっぷりが明らかにのんびりした感じになるものもいます。そんな時は一人デッキに残って、のんびり眺めるのが好きでした。たった一人のホエールウォッチング。贅沢な時間が過ぎていきます。

 基本的に一人、というのが落ち着くパターンのようです。無遠慮、無配慮、時に敵意や好奇心丸出しの“ヒト”が一番、煩わしいのかもしれません。一人の時間を過ごすこと自体が少なくなった今となっては、時々、昔を思い出して懐かしく感じるところです。


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Author:mesoplodon
子供の頃から「生き物」「乗り物」「化け物」好き。海やら街やらで写真を撮っています。

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