アルバムから 1


  ガンガン 1993年6月

 先週、北海道の枝幸町に出張がありました。本当は札幌か旭川からバスで現地入りするところなのですが、年度末の繁忙期ということで、先方のご厚意に甘えて稚内空港から車で送迎をしていただきました。その片道1.5~2時間ほどの道中、私と近い世代の専務さんといろいろな話をしたのですが、彼が高校時代は写真部に属し、今も写真が大好きで、コンタックスのカメラ(フィルム!)を持っていて、動物写真家の方とも親交があると聞くに及んで大変嬉しく思ったと同時に、少なからぬ御縁も感じたのでした。

 私はと言えば、美術大学を出て写真の道を志し、一時は撮影の仕事もしていたのですが、いつしか横道にそれて、今では何をしているか自分でも訳が分からなくなってしまいました。写真が好きだという気持ちだけは失わずに来れたのですが、日常に写真の話をする相手もあまりおらず、ポツンと一人取り残されたようです。なので本当に久しぶりに写真の話ができて、刺激に満ちた楽しい時間が過ごせました。専務さんには感謝、感謝です。

 ズームレンズとデジタル写真の発達は、ある意味、写真の技術に大革命を起こしたのですが、便利さと同時に写真の深淵から遠ざかる結果を招いたように思います。私はズームもデジタルもどっぷり浸かって使用していますので、偉そうに言う立場でもないのですが、瞬時に構図を決められる、あるいは後でどうとでも加工ができるという便利さが、撮影の一本勝負的?な、ある種の覚悟のようなものを無くしたのではないかと思うことがあります。
 今日の写真はフィルムベースです。カラーポジからダイレクトプリントに焼いてあったものをスキャンしました。フィルムはフジのRDP、レンズはキャノンのFDです。スキャンした時点でオリジナルとはどうしても異なってしまうのですが、それでもデジタルと違いはありますか?何か見えてきますか?

 その昔、カラーフィルム(本当はモノクロも)、中でもカラーポジは思う様に仕上げるのがとても大変で、特にコダックのものは乳剤番号ごとに感度や発色の特性が異なり、テストをしてフィルターで補正をかけるのが必須でした。フジの製品ではそのあたりがやや緩和できましたが、それでも露出はシビアで、ここ一番という時には露出を変えたり(段階露光ですね)5~6枚撮ったら数枚、空打ちしてテストに出したり(切り現といいました)したものです。36枚撮りフィルムの20本入りパックが1箱15,000円、現像が1本800円…。費用も馬鹿にならず、一枚一枚にかかる緊張感はデジタルの比ではありません。また36枚撮り終えるとフィルムチェンジになり、大事なシーンが来そうな時には、早い目にフィルムを交換して備えた(デジタル世代に分かるでしょうか…)のですが、そこで未撮影で捨てた数枚~十数枚が結構、頭の痛いことでした。もっとも、大事なシーンの最中にフィルムが終わったら、もっと頭の痛いことですね。色も画質も後処理でいろいろ変えられる、また大容量のカードを差しておけば枚数を気にせず撮影できるデジタル写真の世界はある意味、夢のようです。ズームレンズもまたしかり。ざっくりとした言い方をすると、構図の微調整はズームでカバーできて、瞬時に写真を決めなければならないようなシーンでは本当に便利です。撮影の現場ではずいぶん助かっています。でも、そうした便利さと引き換えにしたものは何かということを考えずにはいられません。安易な構図、安易な設定で写真の質が甘くなってはいないでしょうか。

 北海道・日高の牧場で、仕上げに思いを巡らし悩みながらシャッターを切ったこの写真に、便利さにどっぷり浸かった今の自分をぶつけてみると、ちょっと恥ずかしくなってしまいます。ズームやデジタルが悪いのではなく、いつしか初心を忘れてしまったようで、これが困ったなと。専務さんに刺激を受けて、いろいろ思うところの多い北海道出張でした。

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Author:mesoplodon
子供の頃から「生き物」「乗り物」「化け物」好き。海やら街やらで写真を撮っています。

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